浄土真宗における盂蘭盆会(お盆)のおあじわい
~あなたの大切な方は期間限定で戻ってくるさびしい存在で良いですか?~
お盆についてのおあじわいは、信仰(宗派)や地域性によって様々です。世間一般でよく聞くのは、「8月の13日になると、地獄のカマの蓋が開き、霊魂が帰ってきて、15又は16日にまた戻ってゆく」とか、「迎え火(迎え提灯)を準備していないと迷って故人が帰ってこれなくなる」 などでしょう。しかし、仏教(特に浄土系の諸宗)において、本当にこのようなお盆のあじわい方でよいのでしょうか。 私たちの大切な亡き方々は、果たして地獄に落ちているのでしょうか? 短い期間だけ帰ってくるような(しかも迷いながら)、たよりなく、さびしい存在なのでしょうか?
お盆という仏事は「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言う様に、「仏説盂蘭盆経(※中国でつくられた偽経という説もあるが)」というお経の説話がその由来となっていると言われます。「盂蘭盆経」によると、釈尊の仏弟子(十大弟子)の一人で「神通(力)第一」の目蓮尊者(以下目蓮)が、あるとき、亡くなった母親がどの世界にいるのか、その神通力を使い探していたところ、仏教でいう迷いの世界(六道)の一つである「餓鬼道」に落ちて苦しんでいるのを見つけたそうです。餓鬼道という世界は、空腹を満たすために食べ物を口元に運んでもその直前で全て炎となって消えてしまい、飢餓感・空腹感が満たされずに苦しみ続ける世界です。さながら逆さまに吊りさげられる(倒懸[とうけん])に苦しみだと言います。(※インドの梵語(サンスクリット語)では倒懸をウランバーナと言い、盂蘭盆とはこの梵語を音写したもの) 何故、目蓮の母が餓鬼道に落ちたかというと、生前わが子(目蓮)を溺愛し過ぎたために、他の人やものをないがしろにしたためにこの世界に落ちたと言われています。目蓮は大変驚き、何とか母を救いだそうとし何度も神通力により食物を差し出しますが、当然の事ながら口もとまできた時に全て炎となって燃え尽き、救うどころか逆に苦しみが深まるばかりであったと言います。
そこで目連は、釈尊に救いを請いますと、「7月15日(旧暦)に雨季の安居(あんご、夏(げ)安居ともいう、修行、勉強会)を終えた僧侶らに盛大な法要を営んでもらいその後、僧侶らに、敬い・感謝の心を持ち(讃嘆供養)、施しを与えなさい。さすれば母は救われるであろう」と説かれたと言います。この通りに目蓮が実践したところ、餓鬼道で苦しむ母が救われたと言います。
この経典の真宗的味わい方ですが、まず一つは、人は仏法によってのみ、本当の意味で救われていくのだと言うことです。母を苦しみから救うために幾度となく食物を運んだ目連でありましたが苦しみは深まるばかりでありました。しかし、安居を終えた僧侶たちに法会を営んでもらい、讃嘆供養し施しを与えたことによりはじめて救われたということは、言い換えれば、仏教の三宝(仏・法・僧)への敬いの心を常に持ちなさい、帰依しなさいということです。
また、目蓮のような方の母であっても餓鬼道という世界に落ちていくということは、私たち全ての人間が餓鬼道に落ちていてもおかしくないような日々を実のところ送っているのだということです。この目蓮の母は、他人のことではなく、煩悩にまみれた私たちの姿でもあります。私たちの行いは、良かれと思ってやっていることであっても、知らないところで相手を傷つけたり、さらには、他の尊いいのちを大切にしなければいけないのだと思っていても、他のいのちを頂いて否、奪ってしか生きていけないのが私たちであります。まさに「逆さま」のことを平然と行っているのが私たちです。
そのことを日常私たちは忘れがちでありますからこそ、盂蘭盆経にちなんでつとめられるようになったと言われるこのお盆の時期に、自らの日々の生き様をかえりみ慚愧(ざんぎ)し、浄土に往生した亡き人をご縁として、仏法にあずからせて頂いたことをあらためて喜び、感謝させて頂こうというとらえ方が浄土真宗におけるお盆のあじわい方なのではないでしょうか。だからこそ真宗ではお盆のことを「歓喜会(かんぎえ)」とも言います。
亡き人を偲びつつ、それをご縁としてまことのみ教え(法)に出遇えたならば、大切な故人、が餓鬼道や地獄に落ちているわけでもなく、魂や霊となって期間限定で(盆や彼岸のみとか)戻ってくる頼りなく、さびしい存在でもないということが自ずからわかることでありましょう。
浄土真宗におけるまことの法とは、無論「南無阿弥陀仏」のお念仏です。このお念仏に出遇わせていただくことにより私たちは、たとえ娑婆との縁尽きようとも、間違いなくおさとりの世界であるお浄土に生まれ、常に残された人々をあたたかくみまもり、導いていくような尊い存在とならせて頂くことができるのです。 合 掌
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